最高裁判所第一小法廷 昭和43年(あ)1889号 決定 1969年7月17日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人鬼追明夫の上告趣意は、憲法三一条違反をいうが、その実質は原判決の維持する第一審判決の法令適用の誤りをいうものであり、単なる法令違反の主張に帰し、適法な上告理由にあたらない(なお、被告人が、細居忠一またはその得意先の者について不特定の多数人に観覧せしめるであろうことを知りながら、本件の猥せつ映画フイルムを右細居に貸与し、細居からその得意先である中邑源三郎に右フイルムが貸与され、中邑においてこれを映写し十数名の者に観覧させて公然陳列するに至つたという本件事案につき、被告人は正犯たる中邑の犯行を間接に幇助したものとして、従犯の成立を認めた原判決の判断は相当である。)。
よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。(入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)
弁護人の上告趣意
一、原判決は「被告人は……細居忠一の依頼により同人または同人の得意先の者において夫々不特定多数人に観覧せしめることの情を知りながら右細居を介して昭和四二年三月二九日頃、細居の得意先なる中邑源三郎に対し(猥せつ図画)を貸与し、同人をして(これを)公然陳列するに至らしめ、よつて右中邑の犯行を幇助した」との事実を認定した。
二、本件犯罪事実が原判決認定の通りとした場合、被告人の行為はフイルム及び影写機を提供して正犯たる中邑の犯行を容易ならしめた細居を幇助したものであつて、いわゆる幇助の幇助に過ぎない。
三、もつとも従来の判例(例えば大判昭和一〇年二月一三日刑集一四巻八三頁)は幇助の幇助も間接幇助として正犯の幇助になるものと解している。しかし刑法は教唆者を教唆した者は正犯に準ずるとし、(六一条二項)また従犯を教唆した者は従犯に準ずるとしているが(六二条二項)従犯を幇助した者については何等の処罰規定を設けていないのである。従つて本件について原判決が「正犯を幇助したる者は従犯とす」と規定した刑法第六二条第一項を適用したのは罪刑法定主義(憲法三一条)に反し、法令の適用を誤つたものというべきであり、かつ前記の判例は変更されるべきものと考える。